2023.03.06メディカサイトコラム
2つのショッキングな介護事故の判例!気持ちよく介護をするための施設対策を考える

今回は「介護事故」について。
目次
■2つのショッキングな介護事故の判例
2023年2月28日、3月1日に、介護事故についてのショッキングな判決がありました。
ケース1 誤嚥による死亡事例 約1370万円の損害賠償
愛知県春日井市の社会福祉法人 北陽福祉会が運営する特別養護老人ホーム ほのぼのホーム西尾で起きた誤嚥事例。
2019年2月に施設入所された81歳女性。
以前より食事をかき込んで食べることが多く、たびたび嘔吐していたとのこと。
2019年12月12日の午後、食事中に食べ物を喉に詰まらせて心肺停止状態に。
その後、不幸にも亡くなってしまいました。
名古屋地裁 斎藤毅裁判長は「吐いた食べ物で窒息する危険性を予見できた」として、施設側に損害賠償として計約1370万円の支払いを命じました。(請求は計約3550万円)
ケース2 転倒による死亡事例 1650万円の損害賠償
広島県福山市の医療法人社団 常仁会が運営する介護老人保健施設サンスクエア沼南で起きた転倒事例。
入所していた車いす移動の74歳女性。
これまで、歩行中の転倒事故はなし。
2020年6月11日午前0時過ぎ、自室で転倒。
約7時間後に意識不明の状態となり、その後、不幸にも亡くなってしまいました。
広島地裁福山支部は「職員らには重大な傷害を負うことを回避する対策が義務づけられていた」として、施設側に損害賠償として1650万円の支払いを命じました。(請求は1650万円)
私としましては、かなりショッキングな判決です。
地方裁判所判決ですので、おそらく控訴されるのではないかと思います。
勝っても負けても、亡くなった命が戻ってくる訳ではないため、誰も幸せになりませんが
介護事故の考え方について、高裁、最高裁と、今後の議論に注目です。
■介護事故の「慰謝料」
介護事故の「慰謝料」としては、
1.入通院慰謝料
2.後遺障害慰謝料
3.死亡慰謝料
の3つがあります。
今回の2つのケースは、3.の死亡慰謝料となります。
これまでの判例では、死亡慰謝料は1500万円をベースとして、状況により500万円程の幅で上下するようです。
つまり、判決の金額としては妥当な範囲ということです。
しかしながら、介護施設にとって1500万円というのは、かなり大きな痛手です。
一生懸命、介護に取り組んだ結果として起こった偶発的な事故に対して「注意義務違反」を指摘されてしまうのですよね。
施設には「施設賠償責任保険」に入ることが義務付けられています。
しかしながら「保険」で規定された金額というのは、実は驚くほど少ないのも現状です。
それ以上の金額を求められる場合には、裁判や調停で判決が出ない限り、保険は対応してくれません。
時々、独自に「示談」で、保険対象外の金額をお支払いされたケースを聞くことがあります。
「示談」の場合、第三者的視点が入らないので、場合によっては、エンドレスに係争が続く可能性もあります。
「訴えてやる!」と、ドラマなどでありますが、民事に関しては実は訴えていただかないと、裁判所という公正な第三者の判断を受けることはできません。
調停なり、裁判なりは、被害者側、つまりご遺族側が行動してくれないと始めることができないのですよね。
■全国の介護事故による死亡事例
過去の調査を見てみると、介護事故による死亡事例の調査が2回行われています。
厚生労働省 調査
2019年3月、全国1,741の自治体に実態調査を行い、2017年度の全国の特別養護老人ホームと介護老人保健施設の報告がありました。
介護事故が原因の死亡者数 1547人
うち特別養護老人ホーム 1117人(772施設)
うち介護老人保健施設 430人(275施設)
読売新聞のアンケート調査
2022年7月、2021年度における政令市や県庁所在地など全国106市区へのアンケート調査を報告。
介護事故が原因の死亡者数 1159人
うち誤嚥 679人
うち転倒・転落 159人
どちらも、一部の情報なので、全事例を調査することができれば2~3倍以上の数字になるのかなと思います。
仮に、介護事故における死亡者数が、年間2000例とします。
1事故あたりの損害賠償(死亡慰謝料)を1500万円とすると、
2000例×1500万円=300億円
毎年300億円もの訴訟市場となります。
googleで検索してみると、既に「介護事故」をターゲットとした弁護士事務所も増えてきています。
■介護施設の介護事故対策
これまで
「お世話になっていたから仕方がない」
「示談で表沙汰になっていなかった」
というものが、これからは表に出てくるケースが増えてくると思われます。
介護施設は自己防衛のためにも、どのような対策をしなければならないのでしょうか?
1.介護事故が発生しないための体制づくり
これは、既にどこの介護施設でも行われていると思います。
2.契約時の「介護事故」に対する説明と同意
介護の実務において、誤嚥や転倒をゼロにすることは、ほぼ不可能です。
ゼロにするためには、いわゆる「身体拘束」を行わなければなりません。
もちろん「身体拘束」は人権侵害ですので、「緊急止むを得ない場合」を除いて、介護の現場では原則禁止です。
介護サービスの契約時には「契約書」と「重要事項説明書」を交わします。
この「重要事項説明書」に、どのように記載し、どのように同意を取っていくのか?がとても重要です。
危険なのは
「お任せください!」
「大丈夫です!」
「安心してください!」
「○○の設備を導入しています!」
という、営業トークです。
できることはできる、できないことはできない、ということをしっかりと説明して同意を得ておかないと、後々「言った言わない論」に発展してしまいます。
逆に言えば、各介護施設がしっかりと説明と同意をしていけば、ご家族の「介護事故」に対する意識が変化してくると思われます。
(そもそも「介護事故」という言い方に問題があるかもしれません)
3.施設賠償責任保険の見直しと理解
施設賠償責任保険という保険商品に加入していますが、万一の際に、保険がどこまでカバーしてくれるのか?を十分に理解していないご施設が多いのではないのでしょうか?
自動車事故と違って、施設賠償責任保険では保険会社が「示談」で動いてくれることはありません。
(自動車事故は歴史があって、判例で、特別に「示談」という法律行為が実質認められています)
保険屋さんに、定期的に勉強会を開催してもらうこと、万一の際の手順について勉強しておくことが大切です。
4.裁判所の活用・弁護士の活用
「訴えてやる!」を恐れてはいけません。
「訴訟」を起こしていただかないと、第三者的に見ても公平な対応ができないことがあります。
特に、施設賠償責任保険を活用するためには、判決は重要です。
示談で話がまとまらない場合は、円満な解決のために、調停や裁判の手順のご案内をすることも必要となってきます。
今後、介護事故への訴訟が増えてくるようでしたら、顧問弁護士としての契約も必要になってきますね。
■信頼関係の構築
いろいろ書きましたが、なんだかんだ言って、普段からの信頼関係の構築が重要です。
新型コロナで、面会禁止となっていたご施設が多かったですが、これから改めて交流を深めていけると良いですね。
普段からの信頼関係、万一の事故が起こった際の対応と報告体制、基本を大切にした上で、様々な対策をしていくと良いですね。
働く職員さんも、入居者さん・利用者さん、ご家族、そして経営者、みんなが気持ちよく過ごしていくためにも、改めて体制を見直し、仕組みづくりをしていくことが大切です!